地質と植生


黒髪山系の地質と形成過程

黒髪山系の形成過程(模式図)







形成過程の概要

          古生代から中生代において、佐賀県西部から長崎県北部を広く覆った基盤層があった。新生代になり、その上に陸上植物由来の石炭層を持つ佐世保層が堆積した。地殻変動によって、伊万里・西有田側から佐世保・世知原側へとゆるやかな下向きの地盤の傾斜が起こった。その後国見山系の東側・南東側に大きな断層が生まれた。要するに砂岩や石灰を多く含んだ岩石などの堆積することとなる。

そこに腰岳や国見山系の玄武岩の噴火が起こった。玄武岩は高温(1,200度)であるため、流動性が強い。その後には、南部の黒髪山、英山辺りから有田流紋岩が噴出した。流紋岩は低温(800度)であるため、流動性が弱い。さらに、伊万里安山岩が青螺山、牧山、黒岳のあたりの狭い範囲で噴出する。

少し後に屏風岩、雄岩雌岩などが安山岩質凝灰角礫岩の岩峰として形成された。安山岩の溶岩が噴火し始めるとすでに堆積している火山砕屑岩や火山灰により冷却され、流動性が著しく乏しく岩峰群や屏風岩などを形成する。

この安山岩質凝灰角礫岩には、表面近くに、基盤層の上にあった石灰岩を巻き込み隆起したため超塩基性の土壌が出来上がった。通常酸性を示す流紋岩などもこの石灰岩を幾分巻き込んでいるため、各地区のpH検査でも塩基性をしめしている。

この塩基性、超塩基性が黒髪山系の植生の豊かさを作り出した最大の要因であると思われる。



形成過程の推論(詳細)

@     この山系が形作られた過程を地質時代と地史、現状で見られる地層から考えてみる。

A     まず、古生代から中生代において、佐賀県西部から長崎県北部を広く覆った基盤層があった。その基盤層は砂岩、礫岩、凝灰岩などの堆積層とわずかな讃岐岩などの火山岩により成り立っていた。

B     新生代になり、その上に陸上植物由来の石炭層を持つ佐世保層が堆積した。

C     その後、地域的な地殻変動によって、伊万里・西有田側から佐世保・世知原側へとゆるやかな下向きの地盤の傾斜が起こった。

D     この地盤のひずみや応力を補正するために国見山系の東側・南東側に大きな断層が生まれた。この断層断面は国見山系の伊万里・西有田側の標高500m以下に露出している。そこにほぼ水平な帯状の石炭層も見られ、かつて石炭の採掘が行われていた。

E     石炭層は黒髪山系でも見つかっている。大川内町岩谷と山内町との境に小さな炭鉱があった。これにより石炭層を含んだ佐世保層はカルデラ状に陥没したのではなく、黒髪山系方向から佐世保方向に下降する傾斜した地盤にいくつもの断層が生じたことが伺える。

F     なお、断層に関しては、現状の有田川に沿ったあたりが、黒髪山系側の地盤の西の端になり、傾斜の最下点になる。

G     これ以降は何度かの海面の上昇や広域な地殻変動による地盤の沈下や上昇を繰り返すことにより、海の時代が訪れているものと思われる。要するに砂岩や石灰を多く含んだ岩石などの堆積することとなる。結果としてこの堆積層には化石も見られる。

H     堆積層のできた後に、気象変動や地殻変動によって、陸化が起こる。そこにまず、腰岳や国見山系の玄武岩の噴火が起こったものと思われる。腰岳を中心とした玄武岩は現在の黒髪山系をほぼ覆う広い範囲に広がった。南部域では薄い層となる。この事実はこの山系にある各地の砕石場で最下層の火山岩として観察できる。

I     玄武岩は火山岩の中では最も高温(融点、ほぼ1,200度)であるため、流動性が強く、傾斜した地盤の下降方向へより多量に流れることは容易に想像される。この流動した溶岩によってほぼ山容も形作られている。要するに、腰岳は東側に幾分急峻で、西側になだらかになるのであろう。国見山系も同じように断層の高い部分から噴火した流動性の高い溶岩は、佐世保・世知原方向へと地盤の傾斜を下降するように流れた。これが国見山系の東西の山容の違いとなっているものと思われる。全体に穏やかな山容は玄武岩が高温であり、流動性が高いことに基いている

J     玄武岩の形成が終わった後には、南部の黒髪山、英山辺りから有田流紋岩が噴出した。これによって山系の南部域が形成された。有田流紋岩も北部域では薄い層となるものの、ほぼ山系全体を覆っている。

K     腰岳山頂部からもわずかな流紋岩の噴出が見られる。これが山頂部にある腰岳の白岩といわれるものである。また、腰岳によく見られる黒曜石はこの流紋岩が空気中に放出されることで急冷されたことにより結晶を作らず、ガラス質となったことによりできたものと思われる。

L     流紋岩は火山岩の中では最も低温(融点、ほぼ800度)であるため、流動性が弱い。そのために、かなり尖った山容を呈することになる。

M     この流紋岩の形成後に、伊万里安山岩が青螺山、牧山、黒岳のあたりの狭い範囲で噴出する

N     本来、安山岩は融点がほぼ1,000度程度であるため、溶岩の流動性は、玄武岩と流紋岩のほぼ中間的なものと思われる。山容もほぼ中間的なものになっていくように思われる。

O     この安山岩と同じ時期あるいは少し後に、乳待坊の屏風岩、雄岩雌岩、龍門の屏風岩、衝立岩などが安山岩質凝灰角礫岩の岩峰として形成されたものと思われる。

P     では何故、同じ安山岩でありながら、雄岩雌岩、龍門の屏風岩などは岩峰や屏風岩となったのかという疑問が出てくる。

Q     ここでは同じ安山岩の山である雲仙岳がよい参考になる。雲仙岳の中でも近年に山ができた平成新山は現在でも、火山砕屑岩といわれる砕けた石と火山灰の山である。10数年ほど前に、大惨事を招いた雲仙火砕流は高温の火山ガスと火山砕屑岩が流れ落ちたことによる。この平成新山は現状では幾分煙は上げているものの、冷却が進んでいるものと思われる。

R     この平成新山と同じような時期に再度の安山岩の溶岩が噴火し始めるとすでに堆積している火山砕屑岩や火山灰により冷却され、流動性が著しく乏しくなり、岩峰群や屏風岩などを形成することになると予想できる。平成新山の隣の普賢岳の岩山の成り立ちも同じ過程をたどったものと思われる。

S     以上のようにして大まかな黒髪山系が成立したものと思っている。

 

 

(異説)

この山系の成立過程を仮説したものとしては、郷土地質研究家・H先生(故人・私の恩師)の楯状火山とカルデラ説というものがある。黒髪山系の成立過程に壮大なロマンに満ちた夢のある仮説と感じるが、信憑性に乏しいと思われます。

一応この仮説をまず紹介します。

 

楯状火山とカルデラ説

(仮説の概要)

 現在の黒髪山系のあたりを山頂とする高原状のなだらかな楯状火山があったとする。北西部の裾野は平戸から佐世保とし、南東部の裾野を多久から北方あたりとするものである。標高は1,000m程度とみている。

 この楯状火山の中央部が火山の噴火により地下部が空洞になり、上からの加重を受けて中央部が大きく陥没することで、阿蘇山と同じようなカルデラになったというものであり、その後、この陥没部に伊万里湾から海水が流れ込み堆積層ができたというのである。さらにこの陥没部に火山活動が起こり現状のような山容になったという説である。

 

(仮説の背景)

@     国見山系の伊万里・西有田側が切り立っているのに比較して、佐世保・世知原側がなだらかであること。

A     有田の低地に堆積層が見られ、化石も見つかっていること。

B     黒髪山系に石炭層(杵島・佐世保層)が見つからないということ。

C     杵島地区と国見山系に石炭層が見られるという点。

D     黒髪山系の玄武岩が流紋岩と安山岩におおわれていること。

E     昭和33年発行の通産省地質調査所の「伊万里・有田地質図」によると、仮説として楯状火山・カルデラ説をほのめかしていること。

 

(私の反論)

カルデラ説が仮に真実とするなら、国見山系の西側の玄武岩層に断層が見られるはずであるが、佐賀県西部の玄武岩層にはほとんど断層が見られないこと。また、カルデラであれば円形に近い断層が黒髪山系を取り囲むように残るはずであるが、そのようなものがない。

また、黒岳と青螺山の境あたりから石炭が産出していたことからも、カルデラ説を否定できる。

さらに、現在ある断層の多くは伊万里湾から有明海方向に向かったものがほとんどである。楯状火山・カルデラ説を採用するよりも、古くから言われている地溝帯と考えることの方が説得力を持つように思われる。もしかしたら、中央地溝帯の熊本あたりからの分枝であったのかもしれない。

 

 

植生と地質

 

黒髪山系の基盤層

@      堆積岩の佐世保層

A      火成岩のかんらん岩、讃岐岩(ともに塩基性岩)

 

黒髪山系の表層地質

北部・・・・玄武岩(塩基性岩)現場でのpHの調査では、pH8〜10 (塩基性岩)

腰岳周辺は全体的に玄武岩。

国見山系や今岳、神六山などまで含め、佐賀県西部から長崎県北松地区に広く分布する。

ただし、腰岳の山頂部のみは流紋岩

 中央部・・・安山岩(一般的には中性岩) 現場でのpHの調査では、pH8〜12(超塩基性岩も含まれる)

牧山、青螺山・・・安山岩

雄岩雌岩、龍門、黒岳、後黒髪山・・・安山岩質凝灰角礫岩

南部・・・・流紋岩(一般的には酸性岩)現場でのpHの調査では、pH7〜9 (塩基性岩)

黒髪山、前黒髪山、英山・・・安山岩

 

植物の豊かな理由

@        多様な地質環境と独特の生育環境があること

A        石灰岩を多く含んだ堆積層や超塩基性の火成岩(かんらん岩、讃岐岩など)が基盤層であること

B        表層の火山岩に基盤層を巻き込んだ凝灰角礫岩が多いこと

C        凝灰角礫岩でも硬く浸食を受けにくい溶結凝灰角礫岩であることで、山容の形成後からあまり植物の生育環境が変わらなかったこと

D        大部分が国有林でありながら、急峻な岩山であったため植林の難しさがあったこと

E        地場産業の陶磁器業の原材料である陶石の採掘場として広く保護されたこと

F        黒髪山が信仰の山であったことで人の手が入りにくかったこと

G        低山であるがゆえに、かえって南方系の植物なども多く残存したこと

 

結論    

@ 全国で植物の豊かな山系のほとんどが、石灰岩質ないしは超塩基性のところであり、黒髪山系も同様の地質状況にあると推測される。

 

A 満鮮系の植物や西廻り植物(渡り鳥などの影響により、九州の西海岸の島伝いに北上して南方系の植物が分布を拡げたもの)や、ソハヤキ要素をもつ植物の合流点的な地域であったことによる。

 

黒髪山系の植生と地質 各論

 

個別種に関して

<クロバイ>         

黒髪山系では、黒髪山以南の尾根筋と有田ダム界隈に多いが、ハイノキ科のクロバイは酸性岩の流紋岩を好むと思われる。

この根拠の背景には、長崎県川棚町の大崎半島を例に揚げたい。半島基部の丘陵地はクロバイの密生地として有名であり、地質は流紋岩である。一方、半島の奥部の丸い部分は玄武岩であり、こちらにはほとんどクロバイは生えない。

黒髪山系では、ハイノキ科のシロバイ、カンザブロウノキも黒髪山以南に集中していることを考えると流紋岩を好むものであるように思われる。

北部の青螺山、牧山、腰岳には全くない。

 

<イブキジャコウソウ、イブキシモツケ>

 これらは、岐阜・滋賀県境の伊吹山で発見されたものであり、伊吹山が石灰岩の山であることを考えるに、龍門渓谷から雄岩雌岩の地質の安山岩質の凝灰角礫岩はかなりの石灰岩を含む超塩基性であると予測できる。

 イブキシモツケは石灰岩の山として名高い福岡県香春岳にも多く自生する。

 さらに、平戸島の南西部は同じような安山岩質凝灰角礫岩であり、イブキジャコウソウ、イブキツモツケ、クスドイゲ、ニシノハマカンゾウ、ヤマラッキョウなどが、黒髪山系の龍門渓谷から雄岩雌岩と同様に自生している。平戸島の南西部も石灰岩を多く含むものと思われる。

 

<ブゼンノギク、イブキシモツケ、イワタバコ>

これらも龍門渓谷から雄岩雌岩の間に主に自生するが、これら三種が自生するのは大分県の耶馬渓であり、こちらも凝灰角礫岩である。黒髪山系のこの部分に近い岩石であることが類推される。とくに、ブゼンノギクに関しては、耶馬渓と黒髪山系などの隔離分布であり、植物分布と地質の密接な関係が想像される。

 

<バイカアマチャ、ミヤマトベラ>

 これらも龍門渓谷から雄岩雌岩の間の湿潤なところに主に自生するが、このあたりの地質に似た安山岩質凝灰角礫岩である多良山系にも同様に生える。

 

<ヒロハコンロンカ、タキユリ>

 これも地層に沿っていることを予想させるように帯状に分布している。塩基性の玄武岩を好むものと思われる。

 特にタキユリに関しては、玄武岩の広がる国見山系に多く産出する。

 

<リュウキュウマメガキ>

 有田から山内のいくぶん標高の低い所にのみ生える。このあたりの地質は超塩基性の讃岐岩、かんらん岩が基盤層としてある。リュウキュウマメガキも好塩基性植物ではなかろうかと考えている。

推測の背景としては、超塩基性の讃岐岩が中心の武雄の柏岳にリュウキュウマメガキが多く産出することを考えている。

 

<カナクギノキ>

 クスノキ科カナクギノキは北部には多く生えるが、南部には全くない。

佐賀県西部の地質図 (内外地図梶E佐賀県地質図より転載)

左端・茶色・・・玄武岩・・・国見山系

中央左下・橙色・・・流紋岩・・・黒髪山・上有田地区

中央左下・薄い水色・・・安山岩質凝灰角礫岩・・・龍門・乳待坊

中央左・青色・・・安山岩・・・青螺山・牧山・黒岳

中央左・茶色・・・玄武岩・・・腰岳

右上・緑・・・蛇紋岩・・・天山

右上端・紫・薄紫・桃色・・・脊振山系・・・花崗岩

左上端・茶色・・・上場台地・・・玄武岩